「不動産登記には公信力がない」

この東日本大震災を受けて、法務局では、倒壊・流失などした建物の滅失登記に係る
手続の負担を軽減する特別措置がとられています。
今回の震災によって倒壊などした建物については、建物の所有者からの申請がなくても、
登記官が建物の状況を確認の上、滅失登記を行うそうです。

東日本大震災では、津波の影響で、多くの建物が滅失しました。単純に倒壊といったレベルではなく、建物ごと流され、更地同然になっているところも多くあるようです。

法律や不動産関係の方には常識なのですが、「不動産登記には公信力がない」という言葉があります。
これは、不動産に関して言えば、登記と事実が一致しない場合があり、登記だけを信じた方は法的には救われない可能性があることを言います。不動産登記はあくまでも不動産の現況(「表示に関する登記」)とその権利関係(「権利に関する登記」)を“公示”することが目的です。ただし、公信力はなくても第三者に対する対抗力はあります。

ややわかりにくいですが、極端な例を。もし例が不適切でしたらご指摘ください。
甲さんがAというビルを乙さんに売却したとします。
乙さんはAビルの不動産登記簿を確認したところ、甲さんが権利者とあったので、
そのAビルを安心して購入しました。
しかし、実は、甲は詐欺師で、勝手に丙さん所有のAビルを自分の登記にしてしまったのです。
乙さんはAビルの不動産登記を行ったところ、丙さんが「乙さん、あなた誰?」ということで
この事件が発覚しました。
当然、甲は行方をくらましています。
乙さんは、Aビルの不動産登記簿上の所有者ですので、丙さんに対して対抗することはできます。
しかし、不動産登記は対抗力はありますが、公信力はありませんので、丙さんが
「20年前から私はこのAビルを人に貸していて、家賃収入もきちんと証明できる」と争った場合、乙さんは保護されない可能性があります。
※極端な例ですし、実際の事案になれば、いろいろ出てきます。

さて、今回の震災では、不動産が滅失しているが、甲のような悪い奴が不動産登記だけを示して、「震災で引っ越すので破格の値段でビルを売りたいんです」といい、
第三者に売却してしまったらどうでしょう。上記のようなもめごとが発生するかもしれません。

避難していて、土地の所有者がその土地にいないことをいいことに、現地見学会と称して
自己所有でない土地を売りつける輩がいるかもしれません。

不動産もネットオークションをはじめネット取引ができる時代になっています。

しかし、不動産登記だけを信じて購入するのはやめましょう。
たとえ現況を確認しても、「ここはうちの土地なんですよ」という言葉だけを信じるのも
気をつけましょう。

震災に乗じて、善意を逆手に取った悪事を働く者も出てきています。

怪しい、不安なときは、必ず行政機関や専門家など信頼できる人に相談するのが一番です。

(河上)

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